「───連絡事項は以上だ。
それじゃあ、お前らお待ちかねの転校生を連れてくるか」

「待ってました!」


脊髄反射的に陽菜が叫ぶと、周りの子達がくすくすと笑った。

転校生は、職員室で待っているらしい。

佐原先生が転校生を迎えに行っている間、クラスメイトたちはざわざわと騒ぎ出す。
特に陽菜は、それはもうテンション上がりまくりだ。


「どんな子かなぁ〜、楽しみ! 彼女いなかったら立候補しちゃおっかな♪」

「陽菜ってば、まだ会ってもないのに気が早くない?」

「えぇー。だって、イケメン転校生とか、漫画みたいで最高じゃん!」

「う、……うん、そうだね」


《漫画みたいで》というフレーズに、思わずドキッとしてしまった。


「なぁんて、漫画とかあんまり読まないから適当言ってるだけだけど」


あはは、と悪気なく笑う陽菜。


「深月もそうだよね? 
深月の場合は漫画なんかより、難しそうな小説をサラッと読んじゃう感じ。イメージ的に」

「えぇー。どんなイメージ? それ」

「なんていうの? 純文学、文学少女? みたいな? そういうイメージ。
ほら、深月ってつやつやの黒髪ロングだし、大和撫子って感じのキレーな顔してるし」

「ないない! 陽菜、わたしのことからかってるでしょ」

「本音だってば。あーあ、私も深月みたいになりたいなぁ。せめて、このテニス部日焼けさえなければなぁ〜」


小麦色の腕を撫でながら、陽菜が嘆いた。


……言えない。

私が漫画大好き……どころか、漫画のキャラに恋してるなんて、とても言えない。

小説はともかく、純文学なんて、全く読んだことがない。

陽菜の褒め言葉は嬉しいけれど、本当の自分を隠していることを、私は申し訳なく思った。