私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

タイミングがよかったのか、テルルー……『エレアル』のマスコットキャラの周りには、全く人がいなかった。


「あ、あの! 写真いいですかっ!」


遊園地の公式サイトによると、テルルーの着ぐるみは園内を無規則に徘徊していて、出会うのはかなり難しいらしい。


これを逃したら、二度と出会えないかも!

私が慌てて声をかけると、テルルーはかくん、と少しだけ首を傾げた。


「うわぁ、可愛い……!」


巨大なテルルーの魅力に酔っていた私だったが、


「……何やってんだ、お前」


ファンシーなテルルーから発せられた、聞き覚えのあるテンションの低い声に、私に、私は動きを止めた。


(……い、今の声……、めちゃくちゃ聞き覚えがあるんですけど?!)


「どしたの? 深月」

「お? なにこれお前の彼氏? 元デブスがこんなイケメン捕まえるとか出世したなー」

「……お、」


私はわなわなと口を震わせた。


「お兄ちゃんこそ、なんでこんなとこにいるのよ!」


そう。

テルルーの中から聞こえてきたのは、紛れもなく私の兄───光峰明来(あきら)の声だった。