私は今日も、虚構(キミ)に叶わぬ恋をする。

「やばい! 何あれ!? まじで烈華様じゃん!!」

「あの鋭い瞳に、つやっとした黒髪、それにしゅっとした立ち姿!
うわ〜! 今まで見たどのコスプレイヤーさんよりも、烈華に似てる!」

「遊園地のスタッフとか、『エレアル』の関係者かな!? それにしても似すぎじゃない!?】

「わ、私、一緒に写真撮ってもらおうかな!?」

「あ、ずるい!! 私も!!」


列から抜けた女の子たちが、次々にこちらに向かってくる。


「い、……行こう! 優星くん!!」


私たちは走って、その場を後にする。
そしてしばらく走ったあと、周りを見回して、女の子たちが来ていないのを確認する。

「ここまでくれば大丈夫かな?」

「俺、そんなに似てるかな? 焔烈華に。
自分では全然ピンと来ないんだけど……」

「似てるよ! 私も初めて会った時、一目見て『烈華様だ!』って思ったもん!」

「そうなの!?」


優星くんが目を丸くした。


「ともかく、優星くん、何かで顔を隠した方がいいね」


私と優星くんは、近くのお土産屋さんに入ると、顔を隠せるグッズがないか物色した。


「目と口は隠したいから……サングラスとマスクはどう?」

「それ、余計に怪しくない? 不審者みたいで」

「うーん……じゃあ、これは? 眼鏡」


私が手にしたそれは、黒縁の伊達眼鏡だ。

セイレニアランドのマスコットキャラ・海鳥のレニーが掛けている眼鏡を模したそれは、普通の眼鏡に近く、掛けていても悪目立ちしない。

私が手渡すと、優星くんはその場で試しに眼鏡をかけた。


「……うわあぁぁ……!」


(烈華様の眼鏡姿っ……!!)

あまりの興奮に、私はとっさに心臓を押さえた。


(私、別に眼鏡キャラが好きなわけじゃないのに!)


恐るべし、眼鏡効果。


「……そんなに似合ってない?」


俯いて震える私に、優星くんは不安げに尋ねた。


「……優星くん」


私は、セイレニアのロゴが入った黒いマスクを、優星くんに差し出した。


「お願いだから、眼鏡と一緒にコレも付けて。
お金半分払うから」


このあとずっと眼鏡姿でいられたら、私の心臓がもたない。