――室町時代中・後期の都――。

 店前(みせさき)に小さな1人の人影がこちらに近付いてくる。
ジャリジャリ、ジャリ、ジャリ…。その足音は、そこで止まった。 
店主「いらっしゃい、いらっしゃ〜い!おう!兄(あん)ちゃん!握り飯、用意しといたよ!良いのかい?」
?「…。…先を急ぐんでな。機会があれば…。」
店主「そうかい、残念だなぁ。また、来とくれ!」
 どうやら、青年とも取れるぶっきらぼうな少年は店主と、顔馴染みのようだ。
少年は、店主に、右手を一回軽く挙げた。“すまない。”と言う彼なりの挨拶だ。
 店主は、そんな少年を見えなくなるまで、微笑ましく見守っていた。
 そして、後ろ姿が見えなくなった途端、店主は、ポツリと呟いた。
店主「…ったく、あのガンコ坊主は…。たまには、顔を見せろってんだ。例え、血が繋がっていなくても、オマエは、俺の大事な1人息子なんだからな。」
?「ったく、いつも待たなくて良いって言ってるのに、あのオッサン…。今度待ってたら、シメてやる。ブツブツ。…ん?…そう言えば、今日は、やけに空が騒がしいな…。まぁ、オレには、関係ないけどな。」と、そうポツリと呟いた少年は、ハッ!と我に返った。
?「ハッ!あのオッサンに久しぶりに会ったから、疲れてるのかもしれねぇな。…ん〜、…少し早いが昼飯にするかぁ!」と、1人悪態をつきながら前から気になっていた店前へ立ち寄った。
?「済まねぇ、握り飯2つ、くれねぇか?」
娘「はい。ただいま。」と、注文した矢先、ゴチン!!!と少年の頭に鉄拳が、落とされた。
?「〜〜〜ッ!!ってぇなぁ!何しやがんだ!?このクソオヤジ!!」
店主「てやんでぇ。俺ンとこで買わねぇのに、なんで、ここなら、買いやがるんでぇ!?」
 文句を言いながら頭を撫でている少年の両目からは、うっすら涙が浮かんでいる。相当痛かったらしい…。
?「いいだろ!?何処で買おうが俺の自由だろうがぁ!!」
店主「ったく、ここの契約者は、俺なんだが、娘たちの店なんだよ!」
?「ふ〜ん。って、…え!?えええぇぇぇ!!!???」
店主「なぁに驚いてんだぁ!?飛竜。オメェ、ずっとここの常連じゃねぇか。俺ンとこで何も買っていかないっていう。(笑)」
 飛竜と呼ばれた隻眼の少年は、しばらくの間、何も言い返す言葉が見つからず、立ちつくす他なかった、と言うか、ポカ~ンと開いた口が塞がらない状態だったらしい。
 そんな飛竜を横目に、店主は、腹を抱えて大笑いするわ、店の娘たちにもクスクスと笑われ、ついには、飛竜自身が現実逃避をしだす始末だったらしい。