少し口に含んだだけで、咲はすぐにカップから口をよけようとする。
「もう少しでいいから」
玲がもう一度カップを近付ける。
素直にもう一口水を飲んだ咲はそれだけで体力を消耗したらしく、玲の支えにぐったりと寄りかかる。

慎重に咲の体をベッドに横にして、玲がカップを片付けようとすると咲が小さな声で話しかけた。

「叱らないの?」
その消えそうな声でも、玲にはちゃんと届く。

「叱れる立場にないから。」
「・・・そっか・・・」
言葉はなくても、咲が克子のことを知っているのはわかる。
そして言葉はなくても玲がそれを知っていたことを、咲は知っている。

お互いに、言葉がなくても伝わっていた。