「トラブルか?」
「違います。」
政信なりに娘を気にかけていることは真岸はわかっている。

「一人営業一課から定年退職者が出ます。後任の課長を選任する予定ですがなかなか決められなくて。関係している社員からの聞き取り結果を読みながら考えていました。」
咲の言葉に政信はふっと冷たく笑う。
「お前は変わらんな。」
「申し訳ありません。」
「お前の下には1000人を超える社員が働いている。そのうちのたった一人がやめるだけで、あれこれ眠れずに考えていたら体も時間もいくつあっても足りん。」
政信の言っていることは正しい。

経営者として政信が口にすることはいつも正しい。
咲もちゃんと理解している。

以前の咲なら、父に言われたことに過剰に反応していたかもしれない。
でも今はちゃんと父の言葉を経営者として冷静に聞くことができるようになった。