季節は8月。
 就業後で日差しこそ昼間のギラギラした感じは薄れているとは言え、温度も湿度も高いままだ。
 蒸し蒸しと暑いこんな日に、どうしてこの人はくっ付きたがるんだろう。

 そっと両手で押し除けるように彼の腕の中から逃れると、
「私は和博の顔見上げるのしんどい。もう少し差がない方がいい……」
 5年かけて出した結論。
 それを恐る恐る口にしたら「そっか」って頭を撫でられた。

 そう言うところ。
 小さいせいか、やたら子供扱いされているみたいに感じるあれこれ。
 それが嫌なのに。
「頭を撫でられるのもあまり好きじゃないって言ったら、怒る?」
 頭に載せられたままの和博の手に触れて小声でそう言ったら「そうなの? いつも嬉しそうに目を細めるから好きなのかと思ってた」って嘘でしょ?
「私、嬉しそうなの?」
 聞いたら「うん、とても」って……知らなかった。

 じゃあ、いつから私はこんな風にされることに違和感を覚えるようになったの?
 って言うか嬉しいと思っていたのはいつの頃?