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「和博、こっち」

 色々考え抜いた末に、私はその砂時計を持って和博を喫茶店に呼び出した。

「あのね、今日は話したいことがあって」
 スマホの傍らに砂時計を立てると、残り少ない砂を落とし切りながら恐る恐る話を切り出す。

「何だよ、改まって」

 頼んだアイスコーヒーが2つ、「お待たせしました」とテーブルに置かれたと同時に砂時計に手を伸ばしてひっくり返すと、オリフィスを通って緑色の筋が落ちるのを横目に口を開いた。

「――別れたいの」

 つぶやくようにそう言ったら、「な、んで?」と喉の奥に詰まらせたような声で和博が言った。

 どちらも一口も飲めないままに、アイスコーヒーのグラスの縁が少しずつ水滴で覆われていく。
 机の上に水溜りが出来始めた頃、私はようやく彼への「なんで?」に答えをつむぐ。
「理由は自分でもよく分からないの。っていうより」
 そこでやっとアイスコーヒーに手を伸ばして、差し込まれたストローをぐるぐる回してから中身を吸い上げると、和博を見る。

 グラスを持ち上げたときに滴った水滴がスカートを濡らしてひんやりした。