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「きっと、おでこをぶつけたせいだ」

期末テストの結果が思わしくなくて、愚痴をこぼす。

「いやいや、それはない。よそ事ばっかり考えてたからでしょ」
「ちがうよー」

おでこにアザができた本当の理由は、和葉にも、他の誰にも話していない。
和葉に言ったら、リュウちゃんのところへ乗り込んでいくだろうし。
他の誰かは面白おかしく話すだろうし。

「ドアでゴツンってやった瞬間に、覚えてたものがぜーんぶ飛んでっちゃったの」

これが正解なんだと思う。


「もう少し真面目に考えな。数ヶ月後には三年生だよ?受験生になるんだよ?」
「和葉は、もう少し気楽に考えなよ。せっかくの高校生活を勉強だけで終わらせるつもり?」
「はぁっ!?」
「女子高生のうちに恋のひとつやふたつ、しておいたら?もったいないよ」
「……そういうの、大きなお世話って言うんだよ」

和葉は大きなため息をつくと、ズンズンと先を行く。

「ちょっと待って!ごめん!怒らせるつもりはなかったんだよ」
「べつに、怒ってなんかない」
「ウソだぁ」
「嘘じゃない」

校門付近で足を止める女子生徒のグループがいくつかあって。
和葉と一緒に、その横をすり抜けるようにして歩く。

伊達先輩がまだ出てきてないってことか。
ってことは、リュウちゃんも…。
早く帰らなきゃ。

それにしても。
いつもより人口密度が高いような気がするんだけど。