あ。そうだ。
そういえば、旺太くんが言ってたっけ。

「あの、トモキさん。このまえ、」

会計を済ませ、トモキさんに声を掛けたときだった。

「こんにちは」

ドアが開いて、弾むような声が耳に飛び込んできた。
声のした方へ目をやると、にっこり微笑む美少女が立っている。

胸の下まである、ゆるく巻かれた茶色い艶やかな髪。
かたちのいい鼻と、艶やかな唇。
スカートからのぞく脚は細くて長い。
制服の着こなしも、立ち姿も。
雑誌から抜け出したモデルのようだ。


もしかして、ゆな……?


一瞬、そう思ってしまうほど。
和葉の推しである『あやのん』と同じ雑誌のモデル『ゆな』に似ていた。

『ゆな』の髪型やメイクはみんなも真似をするけれど、それとは比べものにならない。
彼女は顔のパーツひとつひとつまで似ている。

あたしと目が合うと、ゆるく巻かれた髪を指に絡め、弄ぶ。
その仕草を見て、彼女自信も『ゆな』を強く意識しているのだと思った。

正直、うらやましいと思った。
あたしだって、なれるものなら『ゆな』になりたい。
けれど、持っているものが違うのだ。

随分と短くなった髪。
ゆらりと揺れる空気が首元を撫でていく。

あたしは、あたし。

ここに来る前のあたしとは違う。
背筋を伸ばし、また来ます、と言って扉を開けた。