手を振りほどこうとするけど、右手首は締めつけられる一方だ。
「ほら、」
「ちょっと、……っ」
冗談じゃない。
ほんと、ヤダ。
こうして右手を掴まれていることが。
たったそれだけのことが耐えられない。
「離して!話ならここですればいいじゃん!」
「ここじゃ、ムリ」
「………、」
これから起こるであろう出来事が、簡単に想像できてしまった。
想像して、吐き気がした。
「彼女は、」
「バレなきゃいいじゃん?」
「………ぇ、」
嘘でしょう?
信じられない。
ありえないでしょ。
「……ひどい」
そんなのってないよ。
あんまりだ。
風が吹くたび、栗色の、胸の下あたりまで伸びたストレートの髪がサラサラと揺れる。
あたしと同じような背格好をした彼女がリュウちゃんを見上げている。
あたしの目に映った彼女の横顔は、とても幸せそうだった。
あたしだけでなく、彼女のことまで傷つけるのか。
掴まれている右手が痛い。
胸の、奥のほうも。
そうだ。心が痛いんだ。
「痛いの…っ」



