ラブホリック。



避け続けてきた人間が目の前にいる。

椅子に腰掛けたまま見上げたリュウちゃんは、なんだか少し雰囲気が変わっていた。

少し伸びた髪。
緩めたネクタイのカンジも、ズボンのポケットに手を入れて立つ姿も。
久しぶりに見たからだろうか。どこか大人びて見える。

ドクン、ドクン、ドクン―…

鼓動が速くなったのは、ときめいたからじゃない。緊張からくるものだ。
胃の辺りがチクチクと痛いような。
軽く、吐き気にも似た不快感があたしを襲う。
なんだか息苦しい。


「やっと捕まえた。なんで逃げんの?」

リュウちゃんの問いかけに、あたしは首を横に振るだけ。

「まぁ、いいけど。……って、おい。そんなこわい顔すんなよ」

あたしの髪をひと撫でしたリュウちゃん。
驚いて目を見開いたあたしの耳元に顔を近づけてきた。

「話あるんだけど。ついて来てよ」

滑り込んできたリュウちゃんの声。
それに引き寄せられるように、足元に漂っていたひんやりとした空気が体を這うようにしてのぼってくる。
首筋を撫でられたみたいな感覚がして、それを振り払うように勢いよく立ち上がった。

静かな教室に椅子の倒れる音が響く。

「……もう、帰るので」

スクールバッグに伸ばした手は即座に掴まれてしまった。

「すぐ済む」