ラブホリック。



「ねぇねぇ。またサンプルを持ってきたんだけど。使ってくれる?」

コスメ好きなお母さん、お姉ちゃんのおかげで売るほど余っているんだとか。
行き場に困るとあたしに譲ってくれるんだ。
千穂が小さな紙袋の口を開くと、中から色とりどりのパッケージが顔をのぞかせる。
化粧水、乳液、美容液、化粧下地にフェイスマスクまで。

机に突っ伏したままのあたしには、そのどれもが目に入らなかったのだけれど。

「んー。使う。ありがとう」

いつもなら、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。
けど今は、そんな気分になれない。

「どうしたの?元気ないね」
「ちょっと、ね」
「そっか」
「いつもありがとう、って伝えておいてね」
「うん。わかった」

ここに置いておくね、と机の隅に置かれた紙袋をぼんやりと眺める。

あの様子じゃ、千穂の耳には入ってなさそうだ。
ううん。
もしかしたら、知っていて声を掛けてくれたのかもしれない。

千穂は、クラスメイトたちと違って噂話が苦手だ。
ホントかどうかわからないことに振り回されたくないんだ、と。前に聞いたことがある。
噂話で傷ついた過去があるらしい。

『噂話にはときどき、話す人や、聞く人の悪意が込められるでしょう?それがイヤなんだ』

いつもふわふわした雰囲気の彼女から聞かされた言葉が、未だに忘れられない。