手を伸ばし、旺太くんの腕を掴む。
ちがう、と言ったけれど。
多分、ちがわない。
旺太くんにしてみれば、あたしもその他大勢のうちのひとり。
ちゃんとわかってる。
だから抜け出したいんだ。
なんとかして旺太くんの記憶に残りたい。
ひとまとめにされたくない。
なんとか抜け出す方法はないだろうか。
頭をフル回転させるけど、すぐには思いつかなかった。
「このまえ、ここで助けてもらって。そのお礼をしたくて」
覚えているのか、いないのか。
旺太くんの表情から読み取ることは難しい。
旺太くんは自分の腕を掴む手に視線を落とし、べつに、とだけ言った。
気にしなくていいよ。
大したことないよ。
『べつに』に続く言葉で思いつくのはそれくらいだ。
それで終わってしまうんだ。
そんなのいやだ。
終わらせたくない。
とりあえず名乗ろう。
まず知ってもらおう。覚えてもらおう。
「あっ…、あたし、華乃、……二階堂華乃、っていいます」
あたしの右手に置かれていた視線がゆっくり動く。
旺太くんの瞳にまたあたしが映った。
「………二階堂、……華乃?」
柔らかそうな唇が動くと、旺太くんの声が耳の奥のほうで響く。
その振動が脳を刺激し、クラクラとめまいがした。
あたしは声も出せずに、ただただ頷くだけ。
そう、そうです!
二階堂華乃です!
「N北小の、二階堂華乃、」
そうです!
N北小の、………。
え……?
「あんた、『ワンコインの女』だろ?」



