ラブホリック。



旺太くんが現れた瞬間、その場の空気が変わるのを肌で感じた。
ちょっぴり気だるそうに歩く旺太くんの姿を、一体どれだけの人間が胸をときめかせながら眺めていることだろう。
もしかしたら。
たった今、この瞬間、彼に恋してしまった子がいるかもしれない。

そんな中で声を掛けるのは、かなりの勇気が必要だった。
それでも、今しかない。
このチャンスを逃してなるものか、と。
全身を使って大きく息を吸い込んだ。


「……あのっ、」

旺太くんを追いかけ、声を掛ける。
足を止めた旺太くんがチラリとあたしを見た。

ドクンッ―…

心臓が大きく跳びはねた。
呼吸するのも困難なくらい、全身に力が入る。

間近で見る旺太くんの瞳には、確かにあたしが映っていた。
それなのに、旺太くんは歩き出す。
まるで、あたしがここに存在していないかのように。

「……待って、」

呼び止めようと出した声はかすれていた。
あたしと旺太くんとの距離は、たったの数歩。
手を伸ばせば届く距離。
躊躇ってしまうのは、旺太くんの背中が拒絶しているから。

声を掛けられるなんて、きっと日常茶飯事で。
あたしに声を掛けられたことも、数多くあるうちのひとつ。
いちいち相手にしてられない。
そういうことなんだと思う。

でも。

「ちがう、の……っ」