ラブホリック。



『…――線、列車が通過します。ご注意ください』

ベンチに腰掛けたあたしの頭上に響くアナウンス。
辺りをキョロキョロと見まわし、確認する。
リュウちゃんの姿と、旺太くんの姿。
あたしは今、逃げる立場と追う立場、ふたつを同時にこなしている。

リュウちゃんに捕まる前に学校を飛び出してきたから、和葉もクラスメイトも置いてきてしまった。
周囲に注意を払わなくちゃいけないこの状況で、正直、彼女たちのことを考える余裕はなかった。

「ふぅーっ、」

長く細く息を吐く。

朝起きたとき、胸の奥がゆらゆらと揺れた。
それがなぜか引っかかっていて。

『神崎センパイが来たよ。華乃に会いに』

クラスメイトに言われたとき、ゆらゆらの原因はこれだったのか、とガッカリしたんだけど。
それはどうやら違ったみたいだ。

だって、今も揺れている。
よくない感覚というよりは、いいほうの。
なにかいいことが起こりそうな、そんな感覚。


「もしかしたら、今日こそ……」

会えるかもしれない。

電車を何本か見送ったあと、トクン、トクンと規則正しく脈打っていた心臓がキュッと締めつけられた。

「………あ、」

ほら。
そうなることが当然であったかのように。
電車から降りる旺太くんの姿を、あたしはすぐに見つけることができた。