ラブホリック。



「これ、ありがとう」

教科書を差し出すと、いつものように確認される。

「落書きは?」
「………ぁ、」
「したの?」

受け取った教科書をパラパラとやる和葉。

ううん。大丈夫。
あれは教科書じゃなくて、ノートに書いたんだった。
頭に浮かんだ『運命』の二文字。
しばらくは和葉の目に入れないほうがいい。
気をつけなくちゃ。

「落書きなんてしないよ」
「………」

和葉は信用ならないといった様子で、また最初のページから確認作業を行う。


「あ、いたっ!」
「ちょっと、華乃っ!」

声のした方に視線をやると、教室の入口に立つクラスメイトと目が合った。
なぁにと首を傾げると、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。
ドスドスと足音を響かせ、途中、近くの机にぶつかっても気にせずに。
すぐ目の前までやって来ると、あたしの両肩をガシッと掴んだ。

「あんた、なにした?」
「……え?」
「神崎センパイに、なにかした?」
「……は?」

クラスメイトの口から久々に聞かされた名前。
もう話しかけんなよ、と言われた日からとくになにも。
駅でチラッと見かけたとしても、挨拶はもちろん、目だって合わせていない。

「してないよ。するわけないじゃん。ねぇ?」

思わず和葉のほうを見た。
なにもしてないよね、って同意を求めて。

「じゃあ、なんでだろ」
「ついさっき、神崎センパイが来たよ。華乃に会いに」