ラブホリック。

***

「おはよ」
「んふふふふ。ほら、嗅いでごらん」

挨拶も返さず髪の毛を一束掴んだあたしは、それを和葉の鼻先で揺らした。

「朝からテンション高いなぁ」
「だって。ついに手に入れちゃったんだもん」

迷惑そうな表情であたしと距離をとると、あたしがスクールバッグから取り出したそれを怪訝そうに眺める。

「もしかして、それのために寒い中お弁当を食べてたの?」

連日のように付き合わされた和葉はご立腹だ。

悪いとは思ってる。
あたしだって正直つらかった。
寒いし。おにぎり一個じゃ足りないし。
でも、旺太くんに近づくためだ。
すっごく頑張った。
だから手に入れることができたんだよ。

ヘアサロン専売品のオイルトリートメント。
あの日、旺太くんが購入した物と同じ。
100mlで四千円以上もする、このトリートメントがどうしても欲しかった。

「価値観の違い、ってやつよ。これがどれほど価値のあるものなのか。和葉にとっては50以下でも、あたしにとっては100…、ううん、それ以上ってわけ」

数日前だったか、和葉に言われた言葉を借りて説明する。
価値あるものに大金を払うのは当然のこと。
和葉が、あやのん愛用のリップやシャンプーを買うのと同じ。
もしあやのんがこのトリートメントを使っているとなれば、和葉だって欲しいと思うはず。

「……まぁ、それはそうだけど」
「でしょ?」

落として割ったりでもしたら大変だ。
あたしは手に入れた宝物を自慢するだけ自慢して、それをスクールバックに戻した。