「和葉だって、好きな人ができたらわかるよ。くだらないことでも、なんでも。好きな人に近づくためなら必死になれ、」
「へっ…く、ちっ」
「……ちょっとぉ」
真面目な話をしてるのに、なんなのそのマヌケなくしゃみは。
「あー、風邪引きそう。熱出たら責任とってもらうから」
ズズッと鼻をすすったあと、パックのオレンジジュースを飲む。
「寒いとか言いながら、冷たいの飲んでるし。あったかいの買えばよかったじゃん」
あたしから小銭を受け取ると、和葉は迷うことなくオレンジジュースのボタンを押した。
晴れだろうが雨だろうが、いつも選ぶのはオレンジジュース。
真冬になってもそうなのかな、と首を傾げたあたしをチラリと見た和葉。
「今のところ、これだけは譲れないの」
なんて。頑固さをのぞかせたあと、またもやマヌケなくしゃみを響かせた。
「和葉のそういうところ、嫌いじゃないけど」
「へぇ、そう?」
「うん。むしろ、好き」
「………、」
メガネにかかった前髪を指で払う和葉。
その表情は照れているようにも見えて、愛おしさが増した。
「和葉にも早く運命の出会いが訪れますように」
胸の前で手を合わせ、灰色の空を見上げる。
こんなときは青い空のほうがしっくりくるんだけど。
「だからさ、運命って言葉は使わないでって言ってるでしょ。華乃が使うと半減するの。運命が運命じゃなくなる」
和葉はよくわからないことを言うと、視線を空へと移し、小さく息を吐いた。



