「ありがとうございました」
お姉さんがレジから五百円玉を出してトレーに置いた。
「あ……。こちらこそ、です。……ありがとうございました」
お釣りをもらうのが申し訳ないくらい、お世話になってしまった。
それでもあたしにとっては貴重な五百円だ。
一旦は引っ込めた右手をそろそろと伸ばす。
「よかったら、また来てね」
ふんわり笑うお姉さん。
その横に、中学時代からお世話になっている美容師の杏ちゃんの顔が並ぶ。
ごめんね、杏ちゃん。
でも。
杏ちゃんならわかってくれるよね?
あたしの、これからの人生を左右する大事な選択をするときがきたの。
ここに賭けてみたいんだ。
「また来ます!!」
あたしの人生にはきっと、キラッキラに輝いた旺太くんとの未来が待ってる。
「ありがとうございました。気をつけてね」
そう言って扉を開けてくれたお兄さんに深々と頭を下げる。
「ありがとうございました。ほんとに。なんて言ったらいいか、」
旺太くんと直接言葉を交わすことができなかったけれど、心は不思議と満たされていた。
「また、来ます。……っていうか。また来てもいいですか?」
「あはは。もちろんだよ。お待ちしてます」
お兄さん、お姉さん、ハマダくんに見送られたあたしの足どりが軽かったのは言うまでもない。



