オウタは『旺太』って書くんだとか。
あたしと同じ十七歳、高校ニ年生だとか。
「僕の一番下の弟と同級生でね。よくウチに遊びに来てたよ。小学生のときにアイツが引っ越してからは会ってなかったんだけど。今年の春、ここにひょっこり顔を出してさ。またこっちに戻ってきたんだって」
旺太くんに叱られるよ、と何度もお姉さんに止められてたけど。
「華乃ちゃんが相手だと、なぜか不思議と口が動いちゃうんだよ」
鏡越しのお兄さんが、内緒ね、と付け足し、ふっと目を細めた。
なんだか胸の奥のほうがムズムズする。
緩んでしまった口元にきゅっと力を入れた。
ペラペラと誰かに喋ったりしない。
名前くらいは和葉に教えちゃうかも、だけど。
「あのぅ…。それで、旺太くんに会うには、」
どうしたらいいですか。助けてもらったお礼が言いたいんです。
そんなふうに続けようと思ったのだけれど。
「……あ。まさかの、」
扉の開く音。
動きを止めたお兄さんがあたしの肩をトントンと優しく叩く。
入口に視線を移したあたしの体が一気に熱くなる。
「ちは、っす」
きちんと整えられた眉。
その下の、二重でクリッとした茶色い瞳。
長いまつげ。
左目の下の、ふたつ並んだ小さなホクロ。
かたちのよい鼻。
柔らかそうな血色のいい唇。
まさかの、旺太くん……!



