「とりあえず、座って待っててくれる?」
「……はい」
勧められるまま、入口近くにあるキャラメル色をしたソファに腰を下ろした。
お姉さんはあたしが腰掛けるのを見届けると、床を掃いていた男の人に声を掛けた。
「ハマダくん、ちょっといい?」
「なんすか?」
『ハマダくん』がホウキを片手にお姉さんの差し出したノートを覗き込む。
「捜してるんですって。見覚えある?」
店内の、控えめに流れる音楽と混ざりあうような柔らかな声。
それとは正反対の、笑いを含んだ声が耳に飛び込んできた。
「へっ?この絵で!?」
お姉さんが慌てて人さし指を口にあてる。
チラッとあたしを見る、きっと雑用係であろう『ハマダ』。
べつに気にしてませんから。
なんとでも言ってくださいよ。
『まさか』
『これで?』
『イケると思ったの!?』
『どう見てもダメでしょう』
『誰だかわからないって』
クラスメイトにもあれこれ言われたし。
ただ、千穂が。
「見たことあるよ」って。
「この人、知ってる」って言うもんだから。
いけるんじゃない!?って、思っちゃったんだよ。
でもさ。
ちょっとだけ後悔してたんだよね。
お姉さんに見せたときから。
美術部の子に頼んで描いてもらったほうが良かったのかも、って。



