「……あ。……こ、こんにちは。……えっと、あたし、」
目の前のきれいなお姉さんに見とれて、本来の目的を忘れてしまいそうになる。
ご予約は?カットですか?カラーはいかがいたしましょう?
そんな言葉を出される前に慌てて口を開く。
「この人を捜してるんですっ!」
そう叫んだあと、なんの躊躇いもなくノートを差し出した。
「すごく、すっごく会いたい人で。捜してるんです。そしたら友だちが、ここに入っていくのを見た、って言ってて」
「そうなんですね」
「はいっ!」
開いたページには、色鉛筆で描いた彼の顔。
アニメかよ、とクラスメイトは笑った。
力作と言いつつも、絵は得意じゃない。
少女漫画に出てくるような王子様ふうにしか描けなかった。
大事そうに両手で受け取ったノートを眺めるお姉さんは明らかに困っていた。
でも、そんなこと気にしていられない。
「一週間くらい前です。ちょうど、今ぐらいの時間に、」
「一週間前、ね。……うーん」
あぁ、どうしよう。
不安になってきた。
千穂は、「まちがいない」って断言してたけど。
それを信じてここに来たけど。
収穫ゼロってこと、あり得るよね。
だとしたら。
キセキの再会は、実現しないってこと…?
「やだ。そんな、泣きそうな顔しないで。わたしにできることがあれば手伝うから。ね?」
お姉さんはふんわりと柔らかい声でそう言うと、顔を上げたあたしに微笑みかけてくれた。
胸がきゅうっと締めつけられて、のどの奥が熱くなる。



