ガラの悪そうな高校生の集団。
スマホ片手に足早に通り過ぎるサラリーマン。
勉強しか興味なさそうな中学生。

窓の外を行き交うのは、そんな人たちばかり。

「あたしの、王子様……」
「お、……うじ、さま、」

滅多に口にしない単語を発した和葉は、ブルルと身震いをした。
あの瞬間を見ていないから、そんなバカにするような態度をとれるんだ。
あたしと同じ経験をしたら、それこそもう、あたしよりも「王子様」って連発すると思う。


「あぁぁぁぁぁ。会いたい」

テーブルに突っ伏したあたしの腕が邪魔なのか、和葉がぐいぐいと力を入れて押し退けようとする。けど、気にしない。


きちんと整えられた眉。
その下の、二重でクリッとした茶色い瞳。
長いまつげ。
左目の下の、ふたつ並んだ小さなホクロ。
かたちのよい鼻。
柔らかそうな血色のいい唇。


あの日からずっと、頭の中には彼がいる。
目を閉じればいつだって鮮明に思い出せる。

「プリントアウトできたらいいのに」
「………プリントアウト???」

とつぜん耳に飛び込んできた言葉を不思議に思ったのか、和葉はハテナをたくさん並べた。

「頭の中に記録してある彼の顔をプリントアウトできたらさ、あちこちに貼っておけるでしょ?彼を捜してます、って貼り紙」
「……ねぇ。それ、本気で言ってる?」
「うん。本気で言ってる」
「……あぁ、そう」