まさか。
自分の身に起こるなんて、思ってもみなかった。
だって。
マンガとか。ドラマのワンシーンでしかあり得ないって思ってたから。
ガシッと両腕を掴む手と、お尻には、あたしを支えるためなのか、咄嗟に当てられた膝がある。
信じられない。
見た?見てくれた?
背中に体温を感じつつ、和葉や、リュウちゃんと、リュウちゃんの彼女が乗り込んだ電車を見送った。
叫びはしないものの、興奮してる。
奇跡みたいなこの状況に、心臓の動きは速くなる一方だった。
「………大丈夫?」
もたれかかったまま全く動こうとしないあたしの体を、声の主は辛抱強く支えてくれている。
「……す、すみません。……ちょっと、腰が」
転倒を免れた安堵感からか、力が抜けてしまった。
両腕を掴む手に力が加えられ、傾いた体はあっという間に元に戻されるけど、まだ膝は震えていて、フラついてしまう。
「あっ、」
「……っと、」
背中に添えられた手に、体じゅうの血液が集中するような感覚がした。
熱くて、ゾクゾクする。
「ご……っ、」
ごめんなさい、と言うつもりだった。
ありがとうございました、と言いたかった。
でも、言えなかった。



