「気にしなければいいでしょ。車両だって別のにすればいいんだから」

メガネにかかる前髪を指で払った和葉の言葉に目を丸くした。

「本気で言ってるの?」

ムリだよ。
気にするでしょ、ふつう。
元カレが。

……あ。
そう思ってたのはあたしだけか。

好きだった人が彼女と一緒にいる。
そんな場面に遭遇しちゃったら、気にならないほうがおかしい。
別の車両に乗ったところで、意識はふたりに向くに決まってる。


「来たよ。どうすんの?」

ホームに滑り込んできた電車を見た和葉が、あたしの返事を待っている。

「どうするって、」

胃がキリキリしてて。
胸はズキズキと痛い。


ゆっくりと開いたドア。
吸い込まれるように電車に乗り込むリュウちゃんを見ていたら、目の前がぼんやりと滲んでしまった。

やっぱりあたしはリュウちゃんのことが好きなんだ。
簡単には忘れられないほど、リュウちゃんのことが好き。


「乗らない!」

くるりと体の向きを変える。

「えっ、ちょっと…っ。ほんとに!?」

焦ったような和葉の声で唇をきつく結んだ。

和葉のやつ、本気にしてなかったんだ。
こうなったら、意地でも乗らない。