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「今の聞こえた?すっごくいい声だった!」
「あの後ろ姿、好きかも」

駅のホーム。
隣で興奮するあたしをチラリと見た和葉は、やけに乾燥するわと言って、制服のポケットからリップクリームを取り出した。
ティーンズ雑誌のモデル『あやのん』愛用のリップだ。

「昨日の、あの後輩くんのことは?その様子じゃ、諦めついたみたいだね」
「えーっ?諦めつくもなにも、たったの二週間ですから」

ピースサインを作ってみせたあたしは、風で散らばった髪を手で撫でつけた。

一年生にしては大人びた顔をしてる後輩くんに告白されたのだけど。
昨日、なんの前触れもなく別れを告げられた。
交際期間たったの二週間という短さで。

泣き崩れるほどじゃないと思いつつ、やっぱり寂しい。
きゅん、としたあの瞬間がぽろぽろと跡形もなく消えてしまうんだから。

「告白は、何かの罰ゲームだったのかもね」

よく知りもしない相手と付き合うことに反対だった和葉がいじわるを言う。
そこまで言う?って怒りたくなることも平気で口にするのだけれど。
陰で悪く言う人たちに比べたら、全然いい。

「失礼なこと言わないでよ」
「だって、そうとしか思えない」
「和葉にはわからないんだよ。すっごいものがあたしからは出てるんだよ」

オーラとか、フェロモンとか?
滲みでるそれらを和葉にも分けてあげようと、自分のまわりの空気を手で送った。

「やめてよね、縁起わるい」

シッシ、と手で払う仕草をした和葉があたしの肩越しになにかを発見したようだ。
一点を見つめ、動きを止めた。