『運命の人』って言葉を極端に嫌う和葉。
あたしの教室の前で手のひらを上に向け、教科書を返してと言う。

「ごめん。ありがと」
「落書きした?」
「ううん」
「じゃ、いいや」

差し出した教科書を受け取ると、コホンと咳払いをした和葉。

「また後で話、聞くから」

それだけ言うと、スラリとした長い脚でくるりと向きを変え、自分の教室へ戻っていった。

「ありがとー!」

振り向きもしない和葉の背中に向かってブンブンと手を振る。

なんか、元気出てきたかも。


リュウちゃんにしてみたら、あたしはただのオトモダチ。
少々、ワケありの。

あ。ちがった。

『少々』でもなければ、『オトモダチ』でもない。
ただの『都合のいいオンナ』ってやつだった。

つまりあたしは、彼女としてカウントされていなかったわけで。
つまり、ノーカウントってやつで。

だったら忘れてやる。
こんなインチキ試合にこだわってるヒマはない。

恋の花は、満開になる前に散ってしまった。

ひらひらと、はらはらと終わりを予感させる間もなく、一気に散ってしまったけど。
夏も秋もすっ飛ばして、真冬の時代を迎えたけれど。
まだまだこれからだ。

恋することを諦めたくはない。
もう泣かない。
涙なんて流すもんか。


「新しい恋でもみつけるか」

そうつぶやいてグッと伸びをした。