……あれ?
咲いたと思ったんだけどな。
リュウちゃんの中で、『あたし』は咲いてるはずなのに。
「オレと、付き合いたいんだ?」
「………はい」
何を聞かされるのか、不安でたまらなかった。
ずっと持ち続けてきた自信も、シュルシュルと音を立ててしぼんでいく。
相変わらずリュウちゃんの瞳は、吸い込まれそうなほど綺麗な黒だった。
夏の暑さだけじゃない。
緊張しているせいで体じゅうが熱い。
背中をつたう汗は額の汗を誘い、額の汗はのどの水分を奪っていった。
「じゃあさ、」
リュウちゃんが口を開くと、あたしののどがゴクリと鳴る。
「証拠みせてよ」
「……しょう、こ?」
「そっ。オレと付き合いたいって証拠」
目を細めたリュウちゃんが首を傾げてあたしを見る。
その表情はとても色っぽくて、胸が、きゅうっと締めつけられる。
どうにかしてリュウちゃんの彼女になれないものかと考えて。
できる限りのことはしたいと思った。
「あ、……あの。ヒントください。……たとえば、どんな」
「たとえば?……そうだなぁ」
そう言ったリュウちゃんが、一歩、また一歩と近づいてくる。
ふたりの距離がグンと近くなったとき。
あたしの顎を指で持ち上げたリュウちゃんは、「あっ、」という間もなく唇を重ねてきた。
抵抗する隙も与えないくらい、躊躇いも無駄もない。
ゆっくりと唇が離れると、リュウちゃんは右の口角を上げた。



