「あのー、……もしもし?」
気づけばリュウちゃんが、ぼぅっと突っ立っていたあたしの顔の前で手をひらひらと振っている。
「……あ、すみませんっ。だいじょぶです!」
心臓の動きがさらに加速する。激しく動くせいで指先まで震えだした。
リュウちゃんに気づかれたら大変だ。
落ち着け。
平常心、平常心。
「ご、迷惑を、おかけし、」
「あーっ!」
突然に響いたリュウちゃんの声。
その声に反応し、激しく動いていた心臓がびくんと跳ねた。
リュウちゃんは目をまん丸にしてあたしを指さしている。
「思い出した!よく、中庭で弁当食べてる子だ!」
「………え、」
「どっかでさ、見たことある顔だなぁ、って思ってたんだ」
「………あ、」
リュウちゃんの言葉に驚いたのも束の間。気を抜いたら口元がだらしないことになりそうだ。
ほら、芽が出たよ。
『あたし』っていうちっぽけな花の芽が、リュウちゃんの心の中で、ぴょこんと顔を出したんだ。
心の中でガッツポーズをしたあたしは、少し照れた表情をして笑ってみせた。
「そうだ、そうだ。中庭の子だ。あー、スッキリした」



