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「彼女ができたんだよね」

そう言った彼の、あたしを見る目はどこか冷めていて。
九月も半ばを過ぎれば、屋上に吹く風は心地よく感じるはずなのに、全身が氷に包まれたみたいに冷たくなって身震いした。

「……いま、なんて?」

理解できないんだけど、と首を傾げる。
どうやらその仕草が気に入らなかったようで、彼は右手であたしの頭を正位置に戻した。

「か、の、じょ、が、で、き、た」
 
ゆっくりと、はっきりと。一文字一文字に苛立ちを込めるように吐き出す。


「……え、」
「だから、もうナシね」
「………、」

頭の中が真っ白、とか。
彼の言葉が頭の中をぐるぐる回ってる、だとか。
今のあたしの頭の中がどんなだか、しっくりくる言葉を探すのも面倒くさい。
というより、そんな余裕なんてない。


『カノジョができた』
確かにそう言った。

でも。
だって。
じゃあ、……あたしは?
あたしたちは?