ピョーン!

 まるで最初から生きていたみたいに、光を浴びたウサギが五徳(ごとく)を離れて月桂の中を走って行ってしまった。
 窓は閉まっていたのに、そんな物理法則なんて一切無視して、それは月に向かって一直線に宙空(そら)を駆けて行く。

 後には、たった一羽だけ輪っかに取り残されてしまったウサギがぽつん。
 脚が二本欠けてしまった五徳は、もう台座としての用は果たせそうにない――。

 ()けて其れ切り。
 ()けて其れ切り。

 頭の中で、逃げて行った二匹のウサギたちが、口々にそう言って、クスクス笑った気がした。

 私は、最後に残された一匹を、カーテンを全開にして、月影に(さら)した。

   【終】