女子高生って本当に面倒くさい。
教室でもトイレでも廊下でもところ構わず喋り始めるし、ちょっとキツいこと言っただけですぐ泣く。寄ってたかって悪口言うし、絡んでくるのもすごいウザい。
 その点男子高生は本当に扱いやすい。
「賢ちゃん、サッカーしようぜ。」
「いいけど、せめて先生つけろや。生徒指導の先生に見つかったら怒られるぞ。」
「はーい、分かりました。賢ちゃん先生。」
「そういうことじゃねえよ。」
笑いながらこういう会話ができる。女子高生にはできないことだ。こんな会話を女子高生としたら、俺は懲戒免職だ。
「はやくサッカーしようぜ。」
サッカーボールを蹴りながら廊下を走る男子たちを迷惑そうな目で見る女子がいた。だるいけど一応教師として
「おい、廊下は走んな。サッカーボールは運動場で使え。」
注意しておくが、嫌なら自分で注意すればいいのに。
 これだから女子高生は嫌いなんだよ。
「おーい、津ヶ崎ー。」
例外っぽいの来た。
「津ヶ崎、日本史のノート持って来たから受け取って。」
「嫌って言ったらどうする?」
「嫌って言わなくなるまで待つ。」
真央奈…下の名前なんだっけ。1年3組の社会係のやつ。3組には日本史を教えてるから、こいつのことは知ってるけど、今まで見る限りでも変わった人だ。
 女子高生って言うよりも外見だけが高校生になった小学生みたい。決まったグループに属さず、いつも自由気ままにいろんな人と喋っているイメージ。
それなのに頭はよくてこの前の中間では総合順位が10位だった。
 10位って微妙だと思うかもしれないが、俺の勤める青波高校は1クラス30人が10クラスあり、そのうちの1、2クラスは特進クラスだ。ちなみにこの高校は1年のはじめから文理選択ができ、1〜10組の奇数組が文系、偶数組が理系となっている。だから学年の60位くらいまではほとんど特進クラスの人が占めていて、特にトップ10位は特進クラスでも頭のいい人が入るところだ。そこに普通クラスの真央奈がいるのは本当に頭がいいということになる。
 でも性格は小学生だから、会話はしやすいかなと思う。
「津ヶ崎、はやくノート受け取って。」
「敬語を使って、俺に先生つけたら受け取ろう。」
なんとなくおちょくってみる。
「えっと、俺先生、はやくノート受け取ってって思います。」
は?どういうこと?
「いや、ここは『津ヶ崎先生、ノートお願いします。』だろ。」
「あー、先生つけろとか敬語にしろってそういうことか。」
じゃあ逆にどういうことなんだよ。
「もういいや、ちゃんといえてないから職員室まで運んで、一緒に行くから。」
「OK」
俺はいつから真央奈の友達になったのだろう。
「なぁ真央奈、俺のことどう思ってる?」
質問として少しおかしかったかも。返答によってはただの自意識過剰じゃねえか。
「んー、知り合い?いや友達かな。」
「先生じゃないんだ。」
「年齢が近いし、こうやって話してるのは友達っぽいなって思ったから。」
俺は先生じゃなくて友達。はじめてこんなこと言われた。
ちょっとがっかりしたけど、はっきりと友達って言われるのも嬉しいかな。