【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ

「ええ。兄は元々睡眠時間が短いほうなのでもう起きて、仕事をしていると思いますよ。最近大きな案件を動かしていますし」

「大きな案件って、あの例のホテルのこと?」

 何の話か知っているようなきららに、優さんはうん、と頷いて、また先程の雑談に戻ってしまった。
 例のホテル? そのことについても聞いてみようと思ったけれど、まずは誠さんと連絡を取るのが先だ。それに、気になることは、もう人伝いではなく、誠さん本人に直聞いてみよう。

 起きていると思う。とは言っていたけれど、既読にならないメッセージ。
 通話ボタンの上に親指を置いて、その上からあいていた手を重ねて、えいっと押した。

 プルルッ……

 発信音に、急いで耳に当てて、繋がるのを待つ。

 プッ。

 繋がった!

 機械音が途切れて、思わず声をかけてしまう。

「もしもし、誠さん、ゆきので――……」

 おかけになった電話は、電波の届かないところにあるか――……。

 耳元で鳴り響いたのは、誠さんの声ではなくて、不在着信のアナウンスだった。
 ――忙しい、のかな。
 耳から電話を話して、通話を切った。留守電は入れなかった。

「兄さんはなんて?」

 振り返った優さんがシート越しに訪ねてくる。
 私は首を横に振った。

「またあとでかけてみようと思います」