これだって、昔母から聞いた受け売りだ。当時、この場所で。恐らく母もガイドさんが言っていることを私に教えてくれたのだろう。
 国管理官は全員がドバイの民族衣装で、敬虔な雰囲気が圧巻だ。本当にドバイに来たんだなあと、本来の目的をよそに感動してしまうほど。

「さっきからお姉ちゃん随分馴れてるなあって思ったけど……もしかしてドバイ来たことあるの?」

「うん……まだ宇野家に引き取られる前に一度だけ」

「知らなかった! 勝手にお姉ちゃんは初海外だと思ってたよ~誰ときたの?」

「昔、お母さんと来たの」

「えっ、本当に初耳なんだけど。ねっ、あとで覚えてること聞かせて」

 私は頷いた。

 きららが驚くのも当然だと思う。だって妹のきららにも、誰にも言ったことがない。
 私は18年前、まだ母が生きていた頃に一度だけドバイとアブダビに行ったことがある。
 福引きでドバイ、アブダビツアーが当たったのだ。

 私を養うためにいくつも仕事を掛け持ちしていた母は忙しく、それが母と出かけた唯一の思い出といってもいい。誰かに話してしまうと薄れてしまう気がして、なんとなく言えずにいた。
 ――それから、もうひとつ大切な思い出。ドバイの市場で出会った、少年。
 はっきりとした顔を思い出せないけれど、今思えば雰囲気がどことなく誠さんに似ていた気がする。

 誠さんよりずっと、悲しげな目をしていた気がするけれど……。