【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ

「俺の方はもう記入済だから、出張から戻ったらすぐ一緒に提出しにいこう」

 そう彼は微笑んで、目が合う。素直に喜べなくて、目を逸らしてしまった。
 この不安感、違和感。私は彼が好きなのだから嬉しいと伝えればいいだけなのにそれができない。左手のエンゲージリングと目が合う。そう、これを誠さんからいただいた時も同じような気持ちになった。

 彼がどうして私を受け入れてくれているのか。彼の甘い言葉に溺れるばかりで、それが全く見えないままだ。

「あっ、誠さん。ネクタイが曲がって……」

 微かにズレている誠さんのネクタイに手を伸ばしたそのとき。

「いや、自分でやるよ」

 やんわりと手を振り払われ、制止されてしまった。

「……すみません」

 ネクタイを自分で整えた誠さんは、私から目を逸らして少し早口になった。

「じゃあ、行ってくる。なるべく早く帰ってくるから」

 誠さんはそれだけ言い残すと、足早に部屋を出て行った。

 一人残された広い寝室で、ベッドに腰掛けて深呼吸する。
 私以外の人が知っている彼のことを、私はまだなにも知らない。彼の過去も、仕事の話だって私が理解できないばかりにはぐらかされてしまう。ずっと気になっている「彼女」のことだって……。自分に自信を持てるようになったら聞いてみよう、そう決めたのに、知ることが怖くてまた先延ばしにしてしまっている。