【現代恋愛】【完結】執着的な御曹司は15年越しの愛を注ぐ

 誠さんは目を丸くして、にやりと笑った。そして私の上に覆い被さり、耳元で囁いた。

「自分から誘うなんて……初心かと思ったけど大胆なんだね」

 腰に響くような甘い声にぞくりとする。広いベッドだから当然誠さんも一緒に眠るのだろうと深く考えず誘ってしまったけれど、誠さんは私の婚約者だ。
 誠さんの言葉に含まれた意味が分からないほど、初心ではない。
 正直そんなつもりは微塵もなかったけれど、誠さんがそれを望むなら応えるベきなのかもしれない。寄せられた顔に、ぎゅっと目を瞑る。

 瞼の裏、誠さんの気配は感じるのに唇へ触れる感覚がなくて、そろりと目をあけると、誠さんが至近距離で微笑んだ。今まで見たことがないほど切なげな笑み。

「……俺のために、そう思っているうちはこれ以上触れるつもりはないから安心して」

「……っ!」

 私の隣に寝転んだ彼が私を抱き寄せる。傷つけた。そう分かっているのに直ぐに否定できなかったのは彼に触れようとした自分の手が震えていたからだ。
 健二くんに触れられたときと同じ。違うのは健二くんは友達で、誠さんは婚約者だということ。嫌じゃないのに、私は彼を拒否したんだ。
 彼が望むならと、私自身が彼とどうなりたいかを考えず受け入れようとした。それは怠惰で、彼を傷つけるのにはきっと十分だった。

「おやすみ、ゆきの」