優が新ホテル計画に否定的なのは当然だった。設立から約110年もの間、誰が見ても一目で分かる贅を尽くした内装に最高のサービスを提供してきた九条リゾート。そこで豪華絢爛さを捨て、こぢんまりとした隠れ家のようなホテルを創ろうといっているのだから、優を含めた保守派からみれば完全な博打だ。

 突然の出張でアブダビのあのホテルに宿泊させたのも歴史と豪華絢爛さがどこか九条リゾートと通ずるものがあったからだろう。そこにゆきのがいれば、尚、俺の心境に変化がでると思ったのだろう。それが裏目にでたからか、優の表情は曇る。

「……義姉さんは承知してるんですか? この九条リゾートの副社長の妻になる、そんなときに博打みたいなことをすることに」

「ああ。優柔不断だった俺の背中をおしてくれたのはゆきのだよ。ゆきのが俺を信じて……いつかの夢を語ってくれなければ今ここで別の答えを言っていたかもしない」

 珍しく眉間に皺を寄せて拳を握った優に、もうひとつ付け加えた。

「たとえ博打だとしても、ゆきのが関わってるんだ。俺が失敗などするわけない。絶対に成功させてみせる」

 自信ありげにふっと笑い、手を差し出す。漸く目があった優が、降参といった表情で口元を緩めた。

「……そうでした。兄さんは義姉さんのこととなると……。海外事業部総出で協力させてもらいます」