ゆきのと帰国してすぐ、俺は新ホテル計画について話があると優に持ちかけた。
 ホテル近くのカフェで少し話そうと待っていると、背後から現れたのは、ゆきのが隣にいるとわかっていながら何度も電話をかけてきた男、健二だった。

 今日は休みらしく、このカフェの新作を勉強がてら食べに来たらしい。健二が「すぐ退くから」と俺の座ったテーブル席の対面に座る。

「誠、お前さあ、オレがアイツのことそういう目で見てるのっていつから気付いてた?」

「最近だよ。お前の顔は嫌でも長年みてるからな。ゆきのの話をするときの表情をみてればわかったよ」

 ブレンドコーヒーを一口飲んで、目の前の友人に笑いかける。

「……悪いことをした、とは言わない。俺はゆきのを……妻を絶対幸せにしてみせる」

「あー……お前らしくて安心したわ」

 一瞬目を伏せた健二が、にかっと吹っ切れたように笑う。

「なんかさあ、懐かしいよな。もう15年前か。同い年とは思えないほど俯瞰してたお前がさ、海外旅行から帰ってきたら妙に目ギラつかせて……まあ、そのあと色々あったみたいだけどさ」

 俺の愛想のなさに呆れて誰も近づかなかった中学時代。母親が恋人と蒸発したのは旅行から帰国後すぐのことだった。
が、いずれこうなるだろうと予想していたし、九条家に引き取られることが決まり、寧ろ好機だと思ったほどだ。
当時唯一の友人だった健二に旅行先で出会った少女について少しだけ話したことがある。生きる理由をみつけた、と。

 健二は腕を組んでわざとらしく溜息をついた。