優くんが膝に拳を置いて、仕事の表情になる。私も思わず姿勢を正した。

「兄から新ホテルのこと聞きましたよね? 義姉さんも賛成だと伺ったんですが……本当ですか?」

 優くんの目はぞくりとするほど冷たくて、冷静だ。真剣に問い詰められている感覚になる。私は無意識に逸らしそうになった目で、優くんを見つめ返す。ここで戸惑いの色を見せてはいけない。

「うん。私は誠さんの新しい試みを素敵だと思ったの。スタッフとして、は私の我が儘だよ」

「……オレは兄を止めるつもりだったんです。だからアブダビで歴史とラグジュアリーさを思い出して貰いたかった。欲を言えば……義姉さんに兄を止めて欲しかったんです」

 タイミング良く私ときららの宿泊するホテルが誠さんと同じホテルだったのもそのために仕組まれていたのだと今更理解する。すべては優くんの計画のうちだったのだ。
 私は冷たい双眸から目を逸らさず、できるだけ余裕を孕んだ笑みを浮かべる。

「私は誠さんを信じてる。誠さんなら新ホテルを成功させられるもの」

 優くんと誠さんはよく似ている。時折見せる冷たい表情も、心を見透かすような目も。
 だからこそ嘘はつけない。私が語れるのは本音だけだった。
 一瞬驚いたような顔をした優くんが、ふはっと声にだして笑う。

「……まったく。本当にあなた方夫婦は……っ」