私が今できること。それは誠さんの妻として背中をおして、それに自分も関わることだと思った。とんでもない我が儘で誠さんを困らせている自覚はある。そして自惚れてずるい言い方なのも分かっている。誠さんに愛されている自信があるから、こういえば誠さんの決心に繋がる自信があった。我ながら本当に心境の変化がすごい。

 そして私はそれ以上に確信があった。誠さんなら大丈夫。私は誠さんを信じている。絶対新ホテルを成功させてくれる。私も、できることがあればなんでもする。

 誠さんは少し考えた後、ふうと息を吐く。

「スタッフになりたいから結婚は取りやめたい……なんて言われたのかと思って一瞬肝が冷えたよ」

「えっ、そんなわけないじゃないですか! 今すぐサインしてもいいくらいです!」

 婚約を解消するなんて考えもしなかった。誠さんの言葉に私は今日も一日持ち歩いていた婚姻届を引っ張り出した。私の慌てた反応に彼は緊張が解けたようにくだけて喉を鳴らす。

「よかった。帰国したらすぐ提出しにいこう」

 彼は眉間に指をあてて、一瞬唸る。そして自分を納得させるように頷いて、視線が重なる。

「ありがとう。おかげで決心がついたよ」

「こちらこそ……っ、わっ!」

 彼が私を引き寄せて、シーツの中に戻す。大きな手に指を絡め取られて、私の上で彼が官能的に口角を上げた。