「……待って、くださ、い」

 誠さんは構わず私の首筋に顔を埋める。
 軽く触れあっていた舌先が痺れて頭がぽうっとする。流されてしまいそうになるのを必死に堪えた。誠さんに触れられるのが嫌なわけじゃない。だけど、私は先に聞かなければならないことがある。

「……っ、やめて、誠さん」

 声が震えた。誠さんが我に返ったように私の上で上体を起こす。目の前で見開かれた瞳に映って初めて、自分が泣いていることに気付かされる。

「ッ、ゆきの、すまない、こんな無理矢理……」

 誠さんは私の隣に座り直して、前屈みになり顔を顰める。私は手の甲で涙を拭って首を大きく横に振った。

「キスが嫌だったわけじゃないんです。ただ……」

 誠さんのほうを向いて、正座する。小さく深呼吸する。こんな気持ちのまま、体だけ結ばれたくない。

「私、誠さんのことなにも知りません。結婚の真意も、誠さんの過去も……なにも」

 話している途中なのに、じわっと視界が滲んで溢れないように大きく息を吸う。

「私を……誰かと重ねられているのもなんとなく分かってます、でも……」

 ズキズキと胸が痛んで、堪えていた大粒の涙がシーツを濡らす。