ビリッとドレスの引っかかる音が響いた。ハッとなって足下をみると、裾から太腿のあたりまで深いスリットのように破れてしまった。

「えっ、やだっ、どうしよう」

 馴れないヒールなんて履いたから、そもそも危ないと思った時点ですぐにエレベーターを降りなかったから。立たなきゃいけないのに、混乱してしまって、じわっと視界が熱くなる。もういやだ――……。

 いっぱいいっぱいになっていた私の肩に、ふわりとなにかがかけられる。

「いってえええ! 離してくれ! オレが悪かった!」

 さらに先程の男性の悲痛な声が響いて、思わず声の方をみる。

「……誠、さん」

 乱暴してきた男性を取り押さえていたのは誠さんだった。肩にかけられたのは誠さんのスーツのジャケットだと気付く。
 漂う優しい匂いと安心感と裏腹に、どきりとした。誠さんは、見たことのない恐ろしい目をしている。無表情なのに、口元だけはうっすらと笑っていて。

「……誠さん!」

 なぜか、名前を呼ばなければいけないと思った。

「……ッ、ゆきの」

 我に返ったような誠さんと目が合う。すかさずブロンドの男性をホテルのスタッフに引き渡すと私のもとに駆け寄ってきてくれた。
 抱きしめられて、そのまま腕に抱き上げられる。

「このまま俺の部屋にいこう、いいね?」

 破れたドレスも、この状況も恥ずかしくて誠さんの胸に顔を埋めたまま、私は無言で何度も頷いた。