取り敢えず着替えようと手に取って、ふと思い出した。このホテルですれ違った人たちは、ドレスを着ている人も多かった。今着ようとしていたワンピースも上品で、普段自分が着ていたものに比べればずっと素敵だけれど、シンプルなのには変わりない。

 何か他に、とキャリーバッグのなかを掘り返すと、奥から一着だけ、ブラックのドレスとハイヒールがセットででてきた。自分の体に合わせてみる。丈は足首くらいのロングドレスで、首も詰められている。全体的に繊細なレースで繕われていて洗礼されたエレガントさがある。ハイヒールは靴底のレッドが大人びている。

 これにしよう! 誠さんの横に立つ姿を思い浮かべて即決した。

 急いで着替えて、ドレスに合わせて髪もアップスタイルにする。それから買ったものの、普段使いができなくてメイクポーチの奥で眠っていたダークボルドーのリップをひいて、アイシャドウも普段より濃く瞼にのせた。

 鏡の前で最終確認――……少しは、誠さんの横に立ってもおかしくなくなった、かな?
 普段、濃いメイクをしないのでこれが正解なのかもわからない。せめてきららに聞いておけばよかったなと後悔するも、もう時間はない。
 私は鏡の前で深呼吸する。