――また、夢をみている。

 空飛ぶ絨毯の上に乗って夜空を駆け回る。万華鏡のようにキラキラと輝く世界。            
 隣には、顔の見えない彼。

 最初にこの夢をみたときは私の方が小さかった。
何度も繰り返してみているいるうちに、私は彼の身長を追い抜いてしまった。
顔の見えない彼は、最初で最後に会ったあの時から何も変わっていない。

 覚める前から夢だと分かっていても、願わずにはいられない。
 ドバイで出会った彼が、どうか今も笑ってくれていますように。

 キラキラした世界は、おとぎ話。
 現実は昨日と変わらない日々を粛々と過ごす。
 代わり映えなんてなくていい。ただ、平凡で穏やかな今日がそこにあればいい。
 そう、思っていた。
 父が亡くなり1ヶ月。家業である和菓子屋・宇野堂が閉店を迎えた、今日、この日までは。

「やっと会えた。ゆきの、俺と結婚しよう」

 七月、雲一つない晴天。
 コールセンターで夜勤を終えて、一息つく間もなく和菓子屋・宇野堂でぞうきんを片手に掃除する、宇野(うの)ゆきのは頭が真っ白になっていた。
 
え? どちら様? やっと会えたねって?