そんな私たちに片眉を上げて、教授はイケオジ風に顎をさする。

「なんだ、二人揃って。チキンライス不満なのか」

「いえ、あの実は……」

だめだ、シラフで医局員に今からデートなんで別行動で、なんて恥ずかしくて言えない。というかチャイナタウンでチキンライスも食べたい。

諦めて何も言わず着いていこう。そう真田に目配せをしようとしたところで、真田がクソ真面目顔で私の肩に腕を回した。

「すみません、俺らこれからセントーサ島でカジノやって一発当ててくるんで別行動で良いっすか!?」

「え!なになにカジノ行くの!?」

きらりと教授が目を光らせる。そう言えば我らがプロフェッサーはパチンカスであった。

「僕も行きたい行きたい行きたーいっ」

地団駄を踏んで駄々を捏ねるアラフィフ中年男性は中々見れたものではない。これが我らが上司か…と意識を宇宙に飛ばそうとしたところで、肩を抱く手にぎゅっと力がこもったのが分かった。

「……っつーのは建前で、ただ吉野とデートするための口実です。教授はあとで一人で行ってください、すんません」

「「「えっ」」」

私以外の三人がポカンと口を開けて私と真田を交互に見る。

一拍ののち、最初にニンマリしたのは明里だった。

「………へええぇ?なんだ、そんなことならいくらでもどうぞどうぞ!心配しないでください!中年二人のお守りはこのわたくしめにお任せ下さいっ」

「さすが篠塚!ほら、さっさと行くぞ」

「えっ、ちょっと真田っ」

そのまま肩を支えられて、私達は教授たちよりひと足先にタクシー乗り場に向かう。

後ろで「中年二人ってなんだ!」と明里が怒られて「ひぇ〜」と情けない声を上げているのが遠くに聞こえた。