驚いたと同時に、自然と引いたような声が出てしまう。

「………えぇ」

「ええ!?いや、元はと言えばお前が俺に付き合えって言ったんだろーが。……あからさまに引かれるとさすがに傷つく」

そう言って眼鏡を押し上げて、恥ずかしさや照れを隠すように真田がそっぽを向く。

……なんだろう、いま、母性本能のようなものが沸いた気がする。

「え……なんか真田、もしかして可愛い?」

「はあ?……嬉しくねーし」

ますますそっぽを向く彼の、視線の先に行こうとして真田の回りをくるくる回る。その度にますます別な方にそっぽを向くものだから、まるで真田が地球で私が月のように、二人でぐるぐる回っている。

「……おふたり、何してるんです?」

両脇に荷物をどっさりかかえた明里にそう声をかけられて、ハッと二人で我に帰る。

「そろそろ志摩先生のところに戻りましょうか、席もとりたいですし、講演始まる前に志摩先生に声も掛けたいですよね」

ここでぐるぐるしていた私達よりもよっぽどしっかりしていた明里が、行きますよー、と先導してくれるのを、いい歳した二人でとぼとぼ着いていく。

「明里ちゃんって肝心な時しっかりしてるよね……」

「いやほんと偉いもんで」

コソコソ後ろで囁き合いながら、私は一つ重要なことを伝えて無かったと思い出す。

「ねえ、真田」

「ん?」

くい、とその腕を引っ張って、決して明里には聞こえないように真田の耳に口を近付ける。

「夜、デートしよ」

真田がびっくりしたように私を見るので、なんとなくしてやったりな気分になった。