3,忘れることができたなら

恕と別れて、一週間が過ぎた。

あの日、私は決死の覚悟で尋ねたのに、恕は何も言わないで書庫を出て行ってしまった。

戻って来るんじゃないかと思って暗くなるまで図書室で待っていたが、そんな展開を期待した私が馬鹿だった。


それっきり、恕とは連絡を取っていない。
学校で見かけることはあっても、向こうは私をチラッとも見ないし、もともと人前では挨拶すらしない仲だったのだから、口をきくこともなかった。

嫉妬で狂わされる前に離れられて良かった、と考えるべきなのだろう。

だけど、こうもあっさり手放されるとは思わなかった。何のダメージも受けてなさそうなのも(しゃく)にさわる。


――最初から私なんか存在しなかったみたい。


部活の仲間や女の子達と楽しそうに笑っている姿を見ると、恕との15年間は私だけが見ていた夢か、妄想だったんじゃないかと思えてくる。


誰より一番可愛いと言われた8歳の春。

ぎゅっと抱きしめられた10歳の冬。

誰もいない教室でキスした14歳の秋。

そして、初めて寝起きの顔を見られた17歳の夏……すべてがこんなに鮮やかに思い浮かぶというのに。


恕にとっての私は、いったい何だったんだろう?

(だま)されて、(もてあそ)ばれただけだったらどうしよう?

本命が他の誰か、たとえば美咲だったら……?

彼女の顔が脳裏に浮かんだだけで、ギリギリと奥歯を噛みしめたくなるほど(ねた)ましい。

もう別れたのだから嫉妬する権利など私にはないのに、今ごろもう美咲と付き合いはじめているんじゃないかなんて思って、カーッと頭に血が上ってしまう。


今までは嫉妬して苦しんでも、最後には恕の腕の中で、それはそれは甘く(とろ)かされていた。

いつもズルいと思って悔しかったのに、もうあの甘い慰めは無いのだと気が付いた時、私はガクゼンとした。


離れたら楽になれる、なんて。

そんなことありえなかったんだ。