「伶菜ちゃん、コレ、持って。」
『福本さん、これ、一体・・・』
小さく口角を引き上げた彼と見つめあっている時に横から差し出された、純白のブーケ。
ナオフミさんのブートニアと同じ花で作られていたそれをなんとか受け取ったものの
いまだに状況を把握できていない私。
「産科病棟主催、中川院長後援の人前結婚式ってやつよ♪」
『中川院長まで・・本当だ・・・』
ナオフミさんの後方には黒い神父服を身に纏った中川院長の姿が見えた。
「もう院長ってばノリノリでね~。伶菜クンのためなら、ボクが神父をやるって張り切っちゃって・・・・スケジュール調整が大変だって、院長秘書がボヤいていたらしいの。」
『うそ~』
「本当よ。中川院長がここまでやる気になったら、あのナオフミくんでも、恥ずかしいからやりたくないなんて言えないわよね・・・城北病院から無理矢理伶菜ちゃんを引っ張ってきてもらったっていうご恩があるからね。」
クククっと福本さんらしい笑い声を上げた瞬間、電子オルガンによって奏でられているウエディング行進曲の音が聞こえて来た。
「さあ、行きなさい。ダンナさまのもとへ」
「ママ、はやく~」
『わかった。ちょっと待って。』
両手に持っていたブーケを右手に持ち替え、エスコート役の祐希が差し出した手に左手を重ね、彼と一緒に、ステンドガラスの前で待っているナオフミさんの前までゆっくりと歩き始めた。
その途中。
「安田さん・・・」
病室の入り口に置かれた電子オルガンでウエディング行進曲を演奏している看護師の安田さんの姿を見つけ、会釈をするとニッコリと微笑み返してくれた。
その後ろには入院中の妊婦さん達が懸命にこっちへ手を振って下さっていて。
さらに前に進むと
「伶菜さん、産科病棟の皆さんにも愛されているわね・・・・同じ心理士として羨ましいわ・・・」
業務中であるはずの臨床心理室の上司である早川室長まで駆けつけてくれて。
『いえ、そんな、早川室長の足元にも及びません・・・・』
「何言ってるんだか・・・待ってるわよ。みんな、アナタが戻ってくるのを。」
力強い早川室長のメッセージに
涙がこぼれそうになった。
俯きながらなんとか歩を前に進めた。
「パパ~、ママがないちゃいそう。どうしよう」
「祐希、あとは任せろ。ありがとな。」
「がんばって~!!!!」
ダイスキな人の声がすぐ傍から聴こえてきて私は顔を上げた。
目の前にはすぐ手が届きそうな場所にナオフミさんが立っていた。
祐希が放してくれた左手で目に溜まった涙を拭おうとした瞬間、
自分の左手は大きな手に引かれ、
「俺より愛されてるな・・・伶菜はここのスタッフに。」
目元に溜まったままだった涙は彼の親指によってすっと拭われた。



