谷本さんの言う通り
ナオフミさんはあんまり自分の気持ちを曝(さら)け出したりはしない
そんな彼がそう口にしたのは
谷本さん達、産科スタッフを本当に信頼しているからなんだろう
「復帰した日詠先生は、今まで以上にいい表情で患者さんやご家族に向き合うようになったように思うの・・・・なんて言うのかな・・・・医師としての自信がより揺ぎないものになったような・・・決して驕(おご)ることなくね。」
ついさっきの、この病室に入る前の私みたいに
私が意識を失っている間、ナオフミさんはきっと
いろいろなことを想い、考えていたんだろう
生死を彷徨う私と陽菜、そして
家で留守番している祐希の家族として・・・・
「そういう日詠先生を見ているとさ・・・・日詠先生と伶菜さんは・・・お互いが相手の力になる・・そういう関係なんだってことを改めて痛感したんだよね。」
彼女のその言葉に
こんな私でも彼の隣にいてもいいんだ
そう思えて、涙がこぼれた。
「あらあら・・・泣かせちゃったわ。」
『・・・・すみません。』
「いい涙なんでしょ?」
『・・・・はい。』
「それならよかった。」
谷本さんはコットンでそっと涙を拭き取り、もう一度、ファンデーションを肌にのせてくれた。
お姉さんみたいなその口ぶり
私の顔を包んでくれるようなその手つき
それらで私と向き合ってくれている谷本さんを見つめていると
『私、ずっと不安だったんです。産科医師の彼の隣にいるのが自分でいいのかな・・って。もっとバリバリ仕事ができる心理士のほうがいいのではないかって。』
時には厳しく言葉で私に接し
そして時には優しく寄り添ってくれる
・・・・大学時代からの親友の真里を想い出し
谷本さんに真里を重ねて見てしまった私は
自分の胸の中だけに納めておいた気持ちを曝け出した。
「・・・・・・・・」
黙ったまま肌にのせたファンデーションを指で伸ばした谷本さん。
きっと耳を傾けてくれているだろうと思い込んだ私は言葉を続けた。
『そう思いながらも、私はここの産科もダイスキな場所だから、そこを自分から手放すことなんてできなくて。』
臨床心理士として遺伝相談を通じて産科とも関わりを持つようになったのに、陽菜の出産でその場を離れた私
産休・育休は取得しても問題はないとわかっていても
一度、現場を離れると本当に戻れるのか
戻っても前のように受け入れてもらえるのかが不安
退院して暫くは体調がなかなか戻らなかったから余計にそんなことを思っている
「・・・・・・・・」
谷本さんはトントンとリズミカルに指で肌を軽く叩きながら、ファンデーションを馴染ませていく間も黙ったままで。
こんなネガティブな想いとか
言わなかったほうがよかったかな?
陽菜を出産するちょっと前までここで従事している中で
谷本さんとは気軽にいろいろな話をするようになっていて、
つい真里を谷本さんに重ねて見てしまった
真里と谷本さんは全くの別人なのに
私、何やっているんだろう
「ムカつく。」
私の中で谷本さんの反応がないことに不安を感じていた最中、
谷本さんは動かし続けていた手を止め、私から少し離れてからぶっきらぼうに呟いた。



